INTRODUUCTION:
以前、本館で幕末を舞台とした作品のリクエストを頂戴した時、まず思い浮かんだのがこの作品です。多作なこの作者さまの作品の中で、私的には一二を争うほど強く印象に残った作品です。本館のコンセプトには少々そぐわなかったのでご紹介には到らなかったのですが、新館開設にあたって、ようやくご紹介させていただくことができました。
この作者さまの別の作品を本館でご紹介させていただいた時にも触れましたが、とにかく、この作者さまが描かれるヒロインたちは、生きている時代も年齢も立場もそれぞれですが、根幹には共通する部分があり、それはその精神の健やかさであると思います。情熱的なヒロインが愛憎に身を焦がしたり、エキセントリックな行動に走る物語も嫌いではありませんが、この作者さまのヒロインたち、そして作品の魅力はそれとは趣を異とするのです。
ドラマティックに展開する物語で、彼女たちは様々な運命の波にもまれるのですが、それによって彼女たち本来の健やかさが損なわれることはありません。むしろその健やかさゆえのしなやかさ、たくましさで運命を乗り切っていきます。ただただ嘆くのではなく、諦めるのでもなく、もちろん逃げ出すのでもない。流されているように見える時も実はそうではなく、どんな場合にもそこには彼女たちの意志があり選択がある。言い古された言葉ですが、芯の強い女性たちです。芯の強い人間ではあっても、決して我が強い人間ではないわけです。
彼女たちは、常に真っ直ぐに前を見つめながらも、足元の小さな喜びを見誤らず、譲れないものを死守しながら、今ある場所で最善を尽くします。そんな地道で堅実な努力と生き方こそが、遠回りに見えて実は幸せをつかむ可能性が、真実一番高いということは、この年になれば私でもわかりますが、若いときには中々それに気づかないものです。けれども彼女たちは、ヒーローたちに出会う前、あるいは短くはない彼らとの別離の間、その地味とも見える堅実さで運命に対抗し、道を切り開いてゆきます。
小説というフィクションの世界とはいえ、本編のヒロインなどはほんの少女の頃より、それを体で実践していくのですから天晴れとしか申せません。説得力と存在感のあるヒロインの在り方は、作者さまの人生と人間への冷静な洞察力と観察眼、健全な価値観が、昨日今日のつけ刃的なものではないということを物語っております。ストーリーは波乱に富み、恋愛作品として楽しませていただけるドリーム要素もたっぷりございますが、同時に私は人生への讃歌ともいうべきものをこの作品に感じました。ヒロインとヒロインをそのように見事に描ききった作者さまへ拍手したくなる作品であります。 j i r i s様のサイトはこちら
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