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 SITE NAME :  夢 紡 ぎ の 歌   http://w6.oroti.net/~yumetumugi/

 SITE MASTER :  松木 響子 様     【本館CocktailBreak】でご紹介している【松木 響子様】の作品 本館のご紹介作品  

 STORY :

白鳥の死で結ばれた半身を失った姫君は、
亡き恋人に永遠の愛を誓い、男装し戦場に立つが…。
命を救われた黒衣の騎士に反発しながらも
惹かれていくのを止めることができずにいた。
かの人が黄昏に目覚めたこともしらず――
二人の間で揺れる恋の行方は? 
光と影が織りなす中世騎士ロマンス。

――――作者さまによる作品紹介文



 INTRODUCTION:
架空史ではない、実在した時代を舞台とした作品を描くことに本当に長けている作者さまであります。サイトにある他の作品も、舞台となる時代は様々ですが、どの作品も、その舞台となる時代が印象的にそしてリアリティをもって描かれており、そして、そこになんともいえない、その時代ならではとでも言うべき、ロマンの香りが致します。本編は、この作者さまの作品の中では最も長編、そして私メが長く連載を追いかけてきた作品でもあります。物語は、そろそろ終盤にさしかかっておりますが、作者さまの筆力はここまで失速する気配もありませんでした。

舞台は中世ヨーロッパ、中世の騎士たちが、避けては通れなかった十字軍の遠征がそのメインの舞台ともなります。男装の騎士は、オンノベの世界では珍しくもありませんが、そのほとんどが架空の時代世界を舞台としたファンタジーです。この作品のように、実在の時代を舞台とした作品に登場させ、そしてヒロインとした物語を紡ぐのは、その時代に対する知識ももちろんですが、それ以上に、かなりの勇気と力量、そしてセンスが必要なのではないかと思います。騎士が活躍した時代と聞くと私たちは、アーサー王物語の円卓の騎士だの、トリスタンとイゾルデなどの物語を思い浮かべ、なんと申しますか、とても、華麗で華々しく、ロマンティックな時代であるとイメージなさる方が多いかと思います。けれども実際に、中世ヨーロッパで騎士が活躍した時代とは、かなり血なまぐさく殺伐とした時代であり、ある意味非常に野蛮で暗澹な時代であります。それは同時に無知と不潔が横行した時代であり、現代に生きる私たちが通常イメージするところの洗練や優雅とは程遠い時代でもあります。

私メもそれほど詳しいわけではありませんが、中世のヨーロッパが、今の私たちにとっては、信じられないくらい不潔で衛生観念の育っていない環境であったことくらいは知っております。近世以降のヨーロッパの印象が強い私たち日本人は、ヨーロッパ、つまり西洋は、全てにおいて東洋を凌駕していると勘違いしがちですが、少なくとも、この時代のヨーロッパの都市環境や衛生観念だけを比べたら、日本や、中国を初めとする東洋やイスラム文化圏の国々の方が数段優れているような気が致します。なにしろぐっと時代が下がってから建造されたヨーロッパ建築史上の最高傑作と言われるあのベルサイユ宮殿にさえ、トイレがなかったというのは有名な話です。ベルサイユ宮殿が建造された時代よりはるか以前、国情も荒れることの多かった中世ヨーロッパで衛生的なトイレがあったはずもありません。

高校時代、世界史の授業で、私は非常にショッキングな事実を知りました。西洋中世の石造りの城や砦、その外壁部分の上部に、そこだけ後からつっくけたような少し飛び出した部分があるのをご存知でしょうか?外観を、ロマンチックにも、印象的にも見せている魅力的な出っ張り部分のことですが、あれは物見でもあるけれども、トイレ部分でもあるとのことなのです。でっぱった部分の床に穴が開いていて、そこからつまりあれです…用を足していたわけです。余りといえば余りにも大らか過ぎるとおもいませんか?なんだか、頭をなぐられたようなショックを受けた事を覚えています。

また、この頃のヨーロッパには食卓用のフォークもなかったとか。(スプーンはどうだったかなぁ)王侯貴族も庶民も、男性は腰に挿した小刀で肉を切りとると、あとは油でぎったぎただろうが手づかみで食事をとったようです。女性も隣に坐る男性から刀を借りるか、男性が彼女の分を皿にとりわけた後は同じく手づかみ。(フィンガーボールはその名残だという説があります)紙が普及したのは随分後ですから、身だしなみ、あるいは衛生的な生活のために、紙の代わりに何が使われたのか、あるいは使われなかったのか、想像するだけでコワイものがあります。冷涼で乾燥した気候なため、高温多湿な日本ほど必要性がなかったためか、入浴の習慣も普及せず、もちろん浴室も特別にはありません。ペストが大流行したのもうなずけますが、とにかく、暗黒の中世という呼び名は伊達ではなく、魔女裁判やペストの大流行だけがその呼び名の由来ではないわけです。平時の宮廷における王侯貴族の生活でさえその有様だったわけですから、それが戦時に戦場であればどれほどかは押して知るべしです。その勲や誉がどれほど美々しく謳われようが、騎士が一度戦いへ赴けば、彼らは戦場で流血と屍の臭いを嗅ぐ前に、日常的な凄まじい汚濁の中に身をおき、腐敗臭、糞尿の汚臭にまみれて暮らしていたに違いないのです。

オンノベ(アマチュア)だろうが、出版された作品だろうが、こと実在した時代を舞台にした歴史モノであるならば、リアリティが感じられない作品はおもしろさがありません。血なまぐさく汚濁にまみれた時代を舞台に作品を描くのであれば、その汚濁の部分も読者に感じさせなければその時代を舞台とした意味さえないと思います。リアルな歴史モノとして、女騎士の物語を描くということは、そんな血なまぐさい時代の、最も汚濁に満ちていたに違いない戦場で生きる女性を描くことに他なりません。女騎士という響きが、いかにロマンティックに聞こえても、そこに歴史作品としてのリアリティを持たせながら、ロマンティックな部分を損なわずに描くことは並大抵のことではなく、だからこそ勇気とセンスが必要であると私が思うのはそういうわけです。

この作品はその難しいハードルを見事に超えております。この時代特有の荒々しい気配、その野蛮と汚濁の臭いを濃厚に読者に感じさせまながらも、騎士物語が今に伝える美しさやロマンの香りもまた兼ね備えている作品です。それはこの作者さまのご力量と勇気とセンス、あればこその成果であろうと思います。

作者さまの時代背景舞台の描写はすばらしく、それがリアルで迫力があるからこそ、そのうねりや波に損なわれることのない、強く気高く美しいヒロインの姿は一層鮮明となり、魅力的です。月並みな言い方ですが、ヒロインであるカーラインは、まさに、戦場に咲いた一輪の薔薇であり、掃き溜めに鶴とは彼女のことでありましょう。一人戦場に身を置きながら、彼女が強くその心を保てるのは、心の中に永遠の恋人の存在があるからなのですが、彼を思うヒロインの心情は切なく痛々しく、戦場での凛々しさとは対照的です。また彼が登場するシーンの、神秘的で静謐な雰囲気もまた、戦場の混沌とは対極にあり印象的です。その、ヒロインが失われた恋人に捧げる愛惜と恋慕の情と、彼が死して尚、ヒロインに捧げる愛と忠誠、それこそがこの時代ならではの騎士物語的なロマンの香りを漂わせる源となっているような気が致します。

そして登場する黒衣の騎士。ある意味彼はこの時代の暗部の申し子のような男です。流血と汚濁を物ともせず、男性的な魅力にあふれ、荒々しく傲慢で、粗野だけれども、身分のある男なのでそれなりの騎士道もわきまえてはいる。まさに”祖にして野だが卑ではない”を地でいくような男ですが、彼岸の恋人に比べれた清らかとはとても言えず、かなりケガレておりますが、汚れは汚れでも、彼の汚れは、輝かしい生の汚濁と言えるでしょう。
戦場に身を置きながら、心は彼岸の恋人に殉じてしまったようなヒロインの心を、再び現世に呼び戻すには、生と死の境において、常に生を勝ち取ってきた彼のような男にしかできないことかもしれません。

ご紹介の前半、小難しいことを申しあげましたが、文章は読みやすくわかりやすく丁寧で簡潔。ストーリー展開のテンポもよく、明快。時代背景の描写はすばらしいですが、それとて重厚すぎるきらいはありません。とにかく、楽しませていただける作品です。


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