ハロウィンを全く意識せずにはじめたこの『秋に読みたいメルヘン特集』でありますが、季節的にはまさにハロウィンど真ん中、またメルヘンと銘打っただけあって、ご紹介作品の内容もまたそのド真ん中的なものが多く、内心特集の時期とネーミングをもっとハロウィンにぶつければよかったと後悔している管理人です。(^_^;)とはいえ、今までのご紹介作品は、ことさらにハロウィンを意識して探したわけでもなかったのですが、今回、ハロウィンにぴったりの作品を二つ見つけました。欧米人がハロウィンにイメージする、どこかホラーなそれではなく、日本人がハロウィンに抱くイメージそのままの、可愛くて楽しい作品です。しかもどちらも短編、SSですので、すぐに読み終われますが、もう、これだけでハロウィン気分を味わえてしまうことウケアイであります。
SITE NAME : 氷 の 花 束 http://www.geocities.co.jp/Bookend-Christie/8265/index.html
SITE MASTER : 葉 山 郁 様
本館のご紹介作品
STORY :美しい緑の貴婦人。その貴婦人お抱えの楽師が主に長の暇を願い出る。最後の夜、美しい主は楽師に、彼自らの物語を語ることを求める。最初は渋っていた楽師だが、主の求めに、彼が以前仕えていた主人との物語を始める。それは美しく従順ではあるが、心をどこかに置き忘れてきてしまったような娘。娘は、その美しさを聞きつけた王から求愛されるが、好色な王に愛する娘をやるのに忍びない父親はそれを退けてきた。けれども父親は王の命を受けて国を留守にしなければならなくなる。残された娘を王から守れるのは、娘自身の意志と一羽のオウムのみ。高潔な父親の心根に打たれたオウムは必死に娘に物語を語り続ける。父親が帰ってくるまで娘の部屋に誰も入れず、人形のような娘が、ドアの向こうにいる者の言うなりに、その鍵を開けてしまうのを妨げるために…。
作品のご紹介&感想
秋に読みたい大人のメルヘン特集、ぴったりの作品が中々見つからない…と、声高?にわめいていたはっちでありますが…あっさり、すっかり、ばっさり、さっぱり、前言撤回させていただきます!私ったら、私ったら、こちらの作者さまの作品を見落としておりました!以前から存じ上げていたサイトさまで、本館でファンタジー作品としては一番先にご紹介させていただいたにも関わらず、実は実は、恋愛作品にばかり目がいって、この作者さまが得意となさるパロディ系童話はスルーしておりました!今回、初めてと言ってよいかと思いますが、それらの一連のメルヘン作品を拝読させていただいたのですが、おもしろさに仰天しております!ああっ、自分で自分が許せない!いかにもな童話的な出だしと語り口に、さわりだけ読んで引き返してきた自らの愚が、ひたすら悔やまれてしまいます。でも、この特集のおかげで、そのおもしろさに気づけてよかたったぁぁ~!もう、こちらの作者さまの作品だけで、特集が組めてしまうほどたくさんの、そしてバラエティ豊かな、大人が楽しめるメルヘン作品、そろっておりますです。本編はその中でも最新作です!
王様やお姫様がでてくる物語では、その狂言回しの役を務める語り手は、道化か吟遊詩人、楽師の類と相場が決まっておりますが、本編もまたそのセオリー通り、語り部は、旅の楽師という設定になっております。その軽妙闊達な語り口のテンポのよさとリズムはまるで、古典落語を聞いているかのようです。複数の民話を原典となさったというご説明どおり、本編は、三つの物語がまるで、ロシア人形のマトリョーシカように入れ子になっているのです。単体の物語だけではここまでおもしろくはならなかっただろうと思えば、そのアレンジの妙、設定の巧みさにひたすら脱帽であります。
本編ではオウムが語る物語が、その核となる部分なのですが、ほんとにおもしろいです。ストーリー自体は割りとシンプルなのですが、その語り口がもう絶妙でして、思わず引きこまれてしまいました。オウムが語り続ける間にも、ドアを叩く者がおりまして、娘がそちらへ行こうとするたびに、オウムは口先三寸でなんとか彼女を丸め込んで(失礼!)いかせまいとするのです。そのタイミングがもう、これって千一夜物語のシェラザードもかくやという巧さでありました。
ストーリー展開、登場するキャラたちの設定やその台詞の言い回しもとてもおもしろく、それは本編の大きな魅力ですが、おもしろさだけではありません。物語にはとてもわかりやすく、力強い、人生への讃歌ともいうべきメッセージが込められているように思えます。童話や説話に作者や語り部のメッセージが込められているのはよくあることですが、読み手がそれを素直に肯定し、受け入れることができる物語はそうそうありません。特に読む側の人間の年齢があがってゆけばなお更であります。人生や人の心の翳った部分、悲哀や哀切を綴った言葉には共感しやすく、同調しやすくなっても、(つまりアレです、年のせいで涙腺が脆くなったというヤツです)真っ向勝負の光り輝く言葉は眩しすぎ、面映くも青臭くも感じ、ついつい穿った見方をしたくなるものです。
ヒロインは作中、一片の曇りもない真っ当なその信条、座右の銘?を何度も繰り返すのですが、当初は面映さ以外は感じなかったその言葉が、物語が進み、ヒロインがその信条どおりに道を切り開いていくに従って、次第に説得力と重みを増してゆくのです。ラストでは思わずその言葉に拍手したくなる自分がいたりしました。また、童話ならではの楽しいキャラがたくさん登場する物語ですが、彼らはただ愉快なだけではなく、時に非常に重みと深みのある言葉を繰り出します。人と人生の真実を、人ならぬ者に語らせる―、これまた童話の定石であり、醍醐味でありますが、とても効果的でした。ひねくれた年嵩の読み手である私メが、オウムの鋭さに驚き、くじらの言葉には思わず頷く、そして、ヒロインには拍手したくなる。そんな自分に新鮮な驚きと嬉しさを感じ、元気になれる物語でありました。
★本館で開催中 『秋の夜に読みたい大人のメルヘン特集 』 は
こちら から
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SITE NAME : A-METAL http://akaganehiro.tripod.com/
SITE MASTER : アカガネヒロ 様
ご紹介作品一覧
STORY :モトネタはご存じ、ピーターパンです。ファンタジーですが大人向です。大人向というのはエログロってのとはちがいます(当社基準)。つまりこれは、ネバーランドは完全無欠の夢の国だと信じている幼心の持ち主には、決して見てもらえないものなのです。スミマセン。
――作者さまによる作品紹介文より
SITE NAME : A-METAL http://akaganehiro.tripod.com/
SITE MASTER : アカガネヒロ 様
ご紹介作品一覧
STORY :ねむる前に自分を呼ぶ遠い声を聞いたのは、
あれは単なる夢ではなく――。
名もない寒村を舞台にした、アジアン・テイストな狼少女物語。
――作者さまによる作品紹介文より
作品のご紹介&感想
秋のメルヘン企画、本館でご紹介する作品については、心当たりもどっちゃりあり、迷うこともなかったのですが、こと、新館でのご紹介作品については、そうそうすんなりはいきませんでした。大人テイストのメルヘンの秀作は、どっちかといえば本館向け?というような作品が多く、そうでなければおもしろくても、ちょっとだけお子様テイストで、拙宅のお客様におすすめするのはどうかなあと思ったり。これならと思うような作品を読み返してみると、季節が違う!う~ん、いくらなんでも、秋に読みたい―と銘打った特集で桜や春を題材にした作品をご紹介するのはどうよ…とまあ正直、普段私メがテリトリーとしている領分とは少々違うせいか、文字通りかなり難航しておりました。
ところがです、藁をもつかむ心境でさるサイトさまの実に充実したリンク集をたよりに一つ一つサイトを廻っていたところ、お宝サイトにぶちあたりましたです!実は随分以前に一度おじゃましたことがあるサイトさまだったのですが、ブックマークしておかなかったもので、私的にはゆくえを見失っていたサイトさまであります。ノベルもコミックも描かれ多才な作者さまでありまして、 以前は、コミック作品だけしかチェックしていなかったのですが、今回、ノベルも拝読させていただいたら、すっごいですよん♪ノベルもこれまたハイレベル!まだ、ファンタジー系の短編しか読ませていただいておりませんが、もう、他の作品への期待が嫌が応にも盛り上がってしまうすばらしいセンスと筆力を感じてしまいました!とにかくたくさん作品がありますので、まだまだお宝ノベルが埋もれていそうで、これから時間をみつけて、サイトの作品を読破するのが楽しみです!ということで、その中から、今回の特集にぴったりな作品を、ご紹介させていただきたいと思います。
山間の異国の小さな村が舞台。その村に住む少女ジイユエの視点で、物語は、舞台となる村の雰囲気にふさわしく、素朴に、簡潔に、そしてどこかに人の優しさを滲ませながら静かに綴られてゆきます。少女の父が、ある日、狼にそだてられたという曰くのある遠縁の娘ユンホンを家へ連れ帰ってきます。彼女の面差しがジイユエとそっくりだったことから、おかしな噂が広まる前にと、家へ連れてきたのです。狼に育てられたという噂も満更嘘とは思えないほど、人の生活には慣れていないユンホン。けれども、二人の少女は本当の双子の姉妹のように睦まじく暮らし、微笑ましく優しい友情を育んでいきます。
短い物語ではありますし、多くを費やされたわけではないのですが、二人の仲睦まじい様子や、そして村の素朴な暮らしの様子が、読んでいて目に見えるようでした。このどこか遠い国の山間の寒村という舞台設定が、すっ~とはいってきましたので、その上で展開される物語の世界にいつのまにか引き込まれていました。物語の視点は少女ですが素朴な村娘ジイユエの価値観と現実に即した柔軟な思考は、甘やかされた子どものそれではないだけに説得力があり、だからこそ彼女の善良さと優しさには、どこかほっとさせるものがありました。
物語にはまるで、ハリウッドやヨーロッパ映画とは趣を異とする、人々の素朴な生活とその営みにスポットをあてたインドやイラン、中国の秀作映画のようなテイストと雰囲気があります。その印象は、人の小さな優しさと小さな幸せに包まれていたユンホンが、ある選択をして物語が終わったあとも変わりません。ユンホンを廻る物語ではありますが、読者は、ジイユエと気持ちを同じくして、ユンホンの選択を眩しさと切なさ、寂しさをもって受け止めるしかありません。ロマンティックな物語…でもあるのですが、簡単にロマンティックとはいえない、甘さは限りなくゼロに等しいロマンティックさ…。でも、だからこそロマンティック…うーん、うまくご説明できない!どこがロマンティックで、どこが簡単にロマンティックといえないのか、それは、ぜひとも、お読みになってお確かめくださいませ。アジアンカントリーな雰囲気に浸りたい方には特にお薦めであります。
【Library】⇒【幻想・ファンタジー】⇒【Missing Romance】とお進みください。
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SITE NAME : Tiny garden http://www.geocities.jp/tinygarden1130/
SITE MASTER : 森 崎 (もりさき) 様
STORY :高校卒業後、県外の大学に進学したかってのクラスメート伊瀬が前触れもなく突然キクを訪ねて来る。離れていたのはたった四ヶ月なのに、その外見の劇的な変貌ぶりに驚くキク。高校時代、キクは伊瀬に心ひかれながらも友人としての関係まで失ってしまうのを怖れて、最後まで打ち明ける勇気が持てなかった。その彼が、4ヶ月ぶりの帰郷にも関わらず、実家にも寄らずに直接キクの元を訪れたという。手紙の返事をださなかった無沙汰を詫びるためだという伊瀬だが、どうも様子がおかしい。次第に話がかみあわなった二人はその原因がとんでもないことにあったことに気づく――!。
作品のご紹介&感想
秋に読みたいメルヘン特集でありますが、この作品は色々な意味でかなりキワドイです。いいえ、あのキワドイではありません(笑)。まず季節―本編の舞台は夏です。これは秋の企画ではありますが、今がまだ9月、地方によってはまだ夏の気配が残っているということで、ぎりぎりお許しくださいませ。そして果たして、本編がメルヘンといえるかどうか…これまた、非常に微妙であります。けれども、私は、本編をメルヘンとしたい!舞台は現代でありますが、メルヘンと範疇したくなる不思議がこの物語では起こり、なによりもメルヘンという言葉が人にイメージさせるふんわりと優しい光のような雰囲気がこの作者さまの作品にはあるからです。
この作者さまは学園青春恋愛モノの名手であられます。サイトには、派手さはないけれども、瑞々しい青春の日々、その一こまを切り取ったかのような作品がきらめいております。それはそれこそ、スレて、ヒネて、トウが立った私メのような大人の読者をして、思わず、心がほのぼのとし、また水気を取り戻すことができるような珠玉の作品群であります。新館の開設にあたっては、ぜひともこの作者さまの作品をご紹介したいと思っておりましたが、まずは正統派?学園モノからであろうと考えておりました。
ところが、今回の企画で、心当たりを漁っていたところ、この作品に思い当たりました。なにしろ、当初思い描いていたメルヘン作品とは即ち、本館の特集にてご紹介作品のような童話的、民話的な作品というイメージが強かったもので、それ風でありながらエロティックな雰囲気があまり感じられない作品に絞って探しておりましたので難航致しました。けれども、その思い込みをすて、あくまで、大人が楽しめるメルヘン、管理人がメルヘンという言葉にイメージし求める要素を含みながら、大人の鑑賞にも充分堪えうる作品とすれば、Ⅰ~Ⅲのご紹介作品と同じく、本編はばっちりとその資格を備えていることに気づいた次第であります。能書きが長くなりました。ともかくも、本編は、大人の鑑賞に堪えうるメルヘンとしても、現代青春恋愛モノとしても充分に楽しませていただける作品であると思います。
この作者さまの描くところの作品には、目の覚めるような美形キャラや学園の王子も、自信に溢れた御曹司も登場しません。登場するのはちょっと臆病で、不器用、けれども生真面目に真摯に今を生きている、そして恋をしている等身大の普通の若者ばかりです。生き生きと瑞々しく描かれた彼らの恋の物語は魅力的であり、彼らが平凡で普通の若者ではあっても、作品に凡庸な印象は受けません。本編ではございませんが、この作者さまの作品を初めて読ませていただいた時、作者さまの瑞々しい感性と作品としての完成度に驚いたことを覚えています。そして、なによりも、こんな若々しく瑞々しい作品を、未だに楽しめる自分であることにも驚きました。それは一重に作者さまの筆力によるものに他ならなず、それを思えばただただ感謝であります。
丁寧で簡潔、そして透明感のある筆致で紡がれる彼らの物語は、非現実的なドリーム的な派手さこそ無縁ですが、それでも、否、だからこそ読者は感情移入し、共感せずにはいられません。それは青春の日々が遠くなってしまった私メのような大人の読者にとっても同様であることは上で述べさせていただいたとおりであります。ネタバレをせずにご紹介するのが大変難しい作品でありますので、本編そのものに関する詳しいご紹介は割愛させていただきますが、本編にもその雰囲気は溢れかえっております。
ヒーローに心ひかれながらも打ち明ける勇気が持てず、親しい友人としての気安い関係に甘んじていたヒロインは、4ヶ月ぶりの再会に自身の恋心を再確認するのですが、友人としての関係を壊す勇気は今もないわけです。声を聞くと会いたくなる。だから手紙を書いた。そんな切ない彼女の女心など知らないはずのヒーローは手紙の返事を書かなかった事を詫びるためにヒロインの元を訪れたとのことですが、何か妙な違和感がそこにはあります。すぐにその理由は判明しますが、そこからが、本編の本当のスタートとなり、えっ?と思った読者は、じゃあどうなるわけ?―と、ついつい物語に引き込まれてゆきます。そして物語に引き込まれたがゆえに、後半、謎が明かされると、もっと、えええぇぇ~~?!―となることはウケアイであります。事の重大さとは裏腹に訥々とどちらかといえば静かに紡がれるストーリーですが、不思議は不思議としてストーリー展開に無理はなく、それでいておもしろく、だからこそ、読者は最後まであきることなく読み進んでしまうに違いありません。そして読後感は…それはお読みになってからのお楽しみです。
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アルファポリス絵本・童話大賞にエントリーされ、最終選考まで残った作品の中から、はっちが気に入った絵本スタイルの作品をご紹介致します。いやぁぁ~びっくり致しましたよん♪ノベルやコミック、イラストサイトさまは結構お邪魔しておりますが、このような、まぎれもない 『 絵本 』 の世界までもネットで堪能できるとは思ってもいませんでした。またもや目から鱗です。
十代の後半あたりから絵本にはまり、一時期は渋谷の童話家や原宿のクレヨンハウスに通いつめたこともあるはっち。月に一二冊の絵本を選んで買うのが楽しみだったなぁぁ~~。後々の大ベストセラー、ロングセラーの絵本を初版本で買ったというのが密かな自慢だったりします。とはいえ、内容が深い大人向け作品が多かったせいか、娘達が小さい頃にそれら私の自慢の蔵書をはりきって読み聞かせしても、反応が今一だったのでがっかりしたものです。彼女たちのウケは子どもの友のほうが、はるかによかった~(いや、薄っぺらい装丁だけど、あれは福音館の名作復刻が多くて、それはそれでいいんですが)
残念なことに、私メ自身の幼年時代には、丈夫そうな厚紙でできた絵本を手にした記憶はあっても、今のように芸術性もある美しさと深さのある絵本を読んだ記憶はありません。(と、年がばれる…(^^ゞ)だからこそ思春期の終わりに出会った絵本たちが一層衝撃的であり、印象深かったのだと思います。普通一般の小説やコミックはアマゾンなど通販での購入で一向に差し支えありませんが、絵本だけは手にとって、開いてみなければ買う、買わないは決められない代物です。となると、本屋の店先に最後の最後に残るのは、もしかしたら絵本かもしれませんね~?
SITE NAME : しずかな童話 http://marchen.noor.jp
SITE MASTER : エ ミ 様
STORY :『 わたり犬 』
お互いをお互いの飼い主と定め、
旅を住みかに生きてきた、二匹の犬のお話
『 最後の数字 』
初めて習った数字に夢中になってしまった男の子と、男の子に、誰もみたことがないとういう最後の数字を見せてあげるといった女の子のお話
『 うわばみ妃 』
王様には10人のお妃様がいました
王様は10の宮殿を作り、それぞれにお妃様を住まわせていました
『 アルバート 』
「私を愛してくれないか?」
無知で非力な物乞いの少女と老伯爵のお話
『 性悪ウサギ 』
気まぐれでふしだらで性悪なウサギと、
拝み倒して結婚したものの、ウサギのふしだらが許せないイヌのお話
『 翡翠のワニの物語 』
王の宮殿の美しい睡蓮の池には、鮮やかな緑のウロコを持っていたので翡翠のワニと呼ばれる1匹の大きなワニが住んでいました
翡翠のワニと、ワニの友達の王、ワニが助けた乙女のお話
『 図書館のドラゴン 』
私のパパの図書館には翼のあるドラゴンの司書がいる
『 金のライオン 』
草原で死んだ者の魂はやがて星になるという…
一人星を見つめる、強くて美しい金のライオンのお話
――本編より一部抜粋
作品のご紹介&感想
物語というものは皆そうでありますが、どれほど作者の側に訴えたいものがあって綴った作品であっても、それがどれほどすぐれた作品であっても、伝えたいものが伝えたいとおりに読者の胸に届くとは限りません。読む側の人間の年齢、性別、職業、素養、感性、個性、つまりは個々の土壌ともいうべきものの違いによって、作者が蒔いた種は芽吹くものもあれば、芽吹かないものもあり、花が咲くことができてもその色はまちまちとなります。しかも、それが人間と人の世を、時に優しく、時に鋭く、前後ろ斜めから見つめながら、機智とユーモア、時に示唆や警句、揶揄までも含ませて描かれた大人にむけた童話であればなお更です。
おとぎ話の世界と現実が違うことに気づくほど大人になってしまった人間がそれらを読んだ時、作者が伝えようとしたものには気づいても、幼い子どもほど素直にそれを受け取ることができないのは仕方がないことです。作者が伝えたかったと思われる人生の甘さと苦さ―その他それにまつわるもろもろは、いくら潜ませたつもりでも、その類の話が皆そうであるように大人の目にはかなりわかりやすく(見え透いて)見えていることがほとんどだからです。そして、人生の大概の甘さと苦さには免疫がついているのが大人というものです。わかりきっているものをこれ見よがしに、あるいは思わせぶりに諭されることに、不快感を覚えない人間はいないでしょう。作品に不快感を覚えてしまえば、読者の心はその物語から離れてしまい、心の中に入っていくものはありません。思わせぶりは腹が立つ、あからさまなのも興醒めと、大人の読者とは本当に難儀なものです。
とは申せそんな大人の心は、幼い子どものように無防備ではなく、自分を守るために培われた殻に覆われていますが、心の中にある柔らかな部分まで失ってしまったわけではありません。殻の中の柔らかい部分を揺さぶってくれるだけの童話に出会えれば、大人の心も幼い子どもと同じ様にふるえることができるのです。この作者さまの一連の童話に、私の心は心地よくふるえることができました。それはとても嬉しいことでありました。
こちらの作者さまの描かれる作品は、どれもすぐに読み終えることができる掌編でありますが、ひとつひとつが、サイトの御名前そのままに、静かな美しさを湛えて光っております。それはさながら小さな真珠のようであります。童話が皆そうであるように、平易な言葉で綴られていますが、 童話モドキの作品に多い、童話的な文章を意識したあまり、わざとらしさが勝った挙句の読み難さは微塵も感じられません。今回は、特に、私が強く心惹かれた作品を選んでご紹介させていただきますが、サイトには他にもまた違う輝きをはなつ小さな童話が数多くございます。その中から、お客様それぞれのお心をふるわせるお気に入りの真珠を見つけることができるに違いありません。以下はそれぞれの作品の簡単な感想を一言づつ。
『 わたり犬 』
読後、浜辺に坐る、二頭の犬の後姿が目に浮かぶのは私だけではないはずです。この季節、そして人生の秋を迎えようとという私には、ことさらに心に沁み入るものが多い作品でした。
『 最後の数字 』
最高です。齢7才にしてある意味男性の本質ともいうべきものを垣間見させてくれた男の子と、齢7才にしてそれを扱う術を知っているこの女の子に拍手!世の女性陣は、すべからくこの女の子を見習うべきですわん。
『 うわばみ妃 』
可愛らしくて、ユーモラスで、ちょっぴり?残酷。おとぎ話らしいおとぎ話。反撃にでたお妃さまの女としてのあざとさに眉を顰めるよりも、パワフルな賢さに感心してしまった…。
『 アルバート 』
究極の年齢差恋愛もの…!? う、嘘です、美しい物語です。愛する人の名前を呼ぶのは、愛する人の名前にキスをするのと同じ事というフレーズにジーンときました。
『 性悪ウサギ 』
ともかく、この潔くもあっぱれなウサギさんの悪妻ぶりに乾杯!ご亭主さまにはご愁傷さまとしか言えませんが、おいおいって感じです。シンプルですが、こういう切れ味のよいお話は好きです(もちろん切れ味とは包丁のことを言っているわけではありません…(^ _^;A)
『 翡翠のワニの物語 』
基本的にはっちはこのテの物語に弱いです。泣けます。爬虫類は苦手だけど…あれっ、どこかで同じようなこと書いたような…?とにかくこんなワニ君なら愛してしまいます。
『 図書館のドラゴン 』
読書を趣味とするものとして、少女のパパさんとドラゴン君へ賛同せずにはいられません。作者さまへの敬意をこめて、一票!
『 金のライオン 』
何度も申しますが、このテの物語にはめちゃくちゃ弱いはっち。そこに年齢とか夫婦とかがモチーフとなるともう決定的です。ライオンの寂寥と鹿の夫婦のお互いへの思いが、泣けます。
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SITE NAME : I’ErreuR http://erreur.blog42.fc2.com/
SITE MASTER : こ れ ゆ き 様
STORY :『 傾 国 』
むかし銀漆の髪持つ乙女がひとり
いくさ敗れた小国から連れられて
ちから権勢並ぶものなき宰相の
いとしむものになりました
――傾国と呼ばれる美しいむすめのものがたり
『 螺旋階段 』
「百日の間、一日も欠かさずにこちらへ参られて下さいまし。
たとえ何があろうとも、決してお休みになられずに。
わたくしはその百日目に、あなたの剣に祝福を捧げましょう。」
――高き塔に住まう姫に恋した騎士のものがたり
――本編より一部抜粋
作品のご紹介&感想
本館で現在開催中の『
秋の夜に読みたい大人のメルヘン特集』、実は当初、この作品もその中でご紹介するつもりでおりました。けれども記事を書き上げたところで、作品の雰囲気からすれば新館の方がふさわしいことに気づき、急遽、こちらでのご紹介とさせていただきました。ついでといっては何ですが、せっかくですからメルヘン特集、新館でも始めてしまおうと思います。大人が楽しめるメルヘン風の作品であっても、あまりエロティックな雰囲気がない作品をこちらでピックアップしてまいります。
ご紹介の二つの作品は、歌物語とでも名づけたくなるような風情があります。きれいなソプラノで楽の音にあわせながら語る(謡う?)のがふさわしいような物語。同時に、美しい絵を添えて、絵本として装丁したくなるような物語です。短いながら、否、短いからこそ音楽と絵を感じさせる作品なのです。
両作品とも、詩的ではあっても、特別に韻を踏んでいるわけでもないようですが、それでも音の美しさを感じました。読んでいて、不愉快な詰りを感じない、この快適さ!言葉の、特にその音韻に関するセンスがイイ作者さまなのだと思います。リズムとテンポがよく、用いられているのは平易な言葉でありながら、情感があり、余韻が深く、物語に引き込まれてしまうのを邪魔するものがありません。
『 傾国 』
視覚的なイメージも意識なさった作品のようです。物語は、さながら四行詩のように、きれいに長さをそろえた四行でまとめながら進んでいきます。読者はその連をおうごとに、この歌のような、絵のような物語の世界に、引き込まれてしまいます。亡国の美しい女奴隷と、彼女を寵愛する王と宰相。美しい一人の女をめぐる二人の男の対峙と国の興亡。短いこの歌物語の中には、ドラマティックでロマンティックなストーリーが凝縮されていました。明るく美しいばかりではなく棘や謎も秘めた物語ですが、それでもこの物語が私メに感じさせるのは柔らかで淡彩な色調の絵であることに変わりはありません。
『 螺旋階段 』
深草の少将と小町の百夜通いがモチーフでありましょう。高い塔の一番上の部屋に住む、美しい姫君に求愛する騎士。その愛を受け入れる条件として姫君は、騎士に100日の間、この塔の部屋まで訪なうことを求めます。部屋に至るまで続くのは長い長い螺旋階段。作中繰り返されるフレーズは、毎日毎日塔へ通い、その螺旋階段を一段一段昇る騎士の姿を絵として読者にイメージさせずにはいられません。平安の昔、美しく恋多き女だったからこそ男の不実さをよく知っていた小町は、少将に百夜を通わせることで彼の誠実と自分への思いを推し量ろうとしたとされています。さて、100日を通わせることで、この姫君が計ろうとしたのは何だったのか。また、この騎士が果たしてその100日を無事迎えることができたのか。それはお読みになってからのお楽しみです。
【目次】から【もう一つの童話】 へとお進みください。両作品ともそちらで読むことができます。
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